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BACK漢方による正しいダイエットを考える
 中国製のダイエット食品が原因とみられる健康被害が広がっている。厚生省の発表によると、8月19日現在、健康被害者数は759人、うち死者が4人となっている。このような被害が二度と起こらないよう、今回は漢方による正しいダイエットについて考えてみた。

個人輸入で簡単に手に入る未承認ダイエット食品
 現在の日本では、たとえ未承認の医薬成分が入っていたとしても、個人が使用する場合に限り、薬事法の許す範囲内での個人輸入が認められている。被害に遭っているダイエット食品のほとんどがそういった店頭に置かれることのない、個人輸入でしか手に入らない製品であった。しかもインターネットの普及により、ホームページを通じて、個人輸入を代行してくれる業者から、実に簡単に個人輸入ができる土壌ができあがっている。しかし個人輸入では、輸入した製品の責任は全て、輸入者自身が負うことになることを忘れてはならない。輸入した製品が、健康に害を及ぼしても誰も補償はしてくれないのだ。特に未承認の医薬品が入っている健康食品などはそのリスクが非常に高いことはいうまでもない。 
 それでもこのような被害に遭う人が後を絶たないのは、昨今の過剰ともいえるダイエットブームがその背景にあるのではないかと思われる。

過剰なダイエットブーム
 痩せたいと願う多くの女性は、健康よりも痩せることを優先してしまうあまり、副作用が多少あってもすぐに痩せられるダイエット食品へ走ってしまう傾向にある。
 本来、漢方でいう医薬品の中には劇薬も多く存在している。しかし、医薬品ではなくても、通常食用としても使用される材料の中には安全に減肥効果の期待できる材料がたくさんあり、そのような材料のみを使用すれば問題はないはずである。今回の騒動は、すぐに痩せたいという消費者の願望と激化するダイエット食品業界内の競争を勝ち抜くために漢方以外の即効性のある有害な成分を添加してしまったために起こった事故なのである。

添加された有害成分
 厚生省の発表でも明らかになったように、問題となったダイエット食品の中から、高濃度のN-ニトロソ-フェンフルラミンと極微量のフェンフルラミンが検出された。フェンフルラミンとは、食欲抑制成分として、アメリカの多くのダイエット食品に添加されていたが、血圧上昇,頻脈,動悸、瞳孔反射の鈍化によるウトウト状態が患者の約67%に発生した。また、悪心、下痢、便秘、気分不快、口渇、不眠症、めまい、頭痛なども発症した。大量投与により、精神障害や震え、戦慄が起こることも報告され、1997年に使用を中止、もちろん日本でも承認されてはいない。もう一方のN-ニトロソ-フェンフルラミンとは「フェンフルラミンのニトロソ化合物で、自然に存在する物質ではないため、人為的に合成されたもの」(厚生省報道発表)とされている。
 この事実から、フェンフルラミンの食欲抑制効果に注目した中国のダイエット食品メーカーが、フェンフルラミンのままでは未承認医薬品のリストにあり、発見される確立が高いため、新たに同様の効果のあるN-ニトロソ-フェンフルラミンを生成し、添加したと考えられている。
 漢方を売りにしたダイエット食品であるにもかかわらず、結局は合成された食欲抑制成分に頼っているという現実。これは消費者への「だまし」以外なにものでもない。それでは、漢方のみで行う正しいダイエット方法とはどのようなものなのか。

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※いずれからも高濃度のN-ニトロソ-フェンフルラミンと微量のフェンフルラミンが検出された。

漢方による正しいダイエットとは?
 漢方によるダイエットには、とにかく安全でしかも食べながら痩せることができるという認識が存在する。だが、多くの人がこの「漢方によるダイエット」の本当の意味を誤解しているようだ。元中国長春中医学院の教授で、現在は日本で杏林中医薬情報研究所の所長を務める、袁世華氏に今回の騒動と漢方によるダイエットの正しい意味を聞いてみた。
袁世華: ●現在の騒動について
 今回問題になった製品のうち、ある一部のダイエット食品の広告を見たら、月に4キロ痩せたとなっていますが、それは私の目から見ると明らかに問題です。漢方で痩せる場合は1ヶ月で4キロもやせるはずがありません。どのようなもの、例えば漢方の下剤を入れてもそれほど効果は早くありません。激しい下痢をしない限りはそうはなりません。ですからそのような場合は明らかに医薬品を入れた可能性があります。中国のダイエット食品には具体的にどの成分が含まれているか分からず、秘密になっているものが多くあります。原材料の欄にいろいろな生薬の名前を書いて、最後に「など」と書いていますが、その「など」の部分に何が入っているのか分からないのです。中国では、日本で売れるとなると、あらゆる会社が一斉に同じ様な製品を作ります。その時に「など」に含まれる中に危険な成分が入ることは十分に有り得ます。
 医薬品でない、一般に食用にもされる生薬は安全で、ダイエット食品としても使用できます。効果の即効性は期待できませんが、徐々に減肥の効果が必ず現れてきます。具体的には徐々に体重を減らし、その体重を維持し、内臓に脂肪が貯まらないようにするといった効果が現れます。しかし、問題の起こっていないダイエットの食品は、大体効果が遅い、または体重が減ってもすぐに元にもどってしまい、問題のないダイエット食品を食べて成功した人は一部の人しかいません。このような食品は続けてやらなければ効果が出てきません。また食事にも注意しなければなりません。太っている人はもともと食欲の旺盛な人が多いので、この点は注意が必要です。すぐに痩せさせるのではなく、徐々に痩せさせ、さらに太りにくい体質を作るということが大切です。
 最近の人々はどうしてもダイエット食品には即効性を期待してしまい、ちょっと効果が出ないとなるとすぐにやめてしまいます。またダイエット食品を販売している各会社の競争は厳しいですから、どうしても自社の製品はすぐに効果が出るように考えますが、中医学の観点からいえば、急激に痩せるということは、体力・抵抗力・免疫力が落ちてしまうので、やってはいけないことなのです。
●漢方でいうダイエットとは?
 私は漢方について長年研究してきましたが、漢方のダイエットと西洋医学のダイエットの考え方とは基本的に違います。西洋医学の場合は、何らかの方法で食欲を抑制したり、消化・吸収を邪魔したりします。今回の中国で問題になっているものにも食欲抑制の成分が入っていますが、基本的には体には良くない方法です。漢方の本来の考え方は、逆です。漢方でいうダイエットには、以下の5つの方法があります。
1, 脾臓を強くする
   一つ目は、肥満の人は消化と吸収の力が強くありません。消化と吸収を司るのは脾胃ですが、脾胃が強すぎるから肥満になってしまうと考えがちです。しかし実はそのような人は脾胃が弱いのです。例えば漢方医学でいう脾臓は筋肉を司ります。脾臓が強ければ力が強いわけです。肥満の人は力が弱いです。そういう意味で肥満の人は脾臓が強いのではなく、むしろ逆で脾臓が弱いということになります。弱いから消化と吸収も弱い。例えば脂肪の場合は、脂肪を消化・利用する力も弱い。ですから筋肉にならず脂肪として貯まってしまう。よって脾臓が弱いといえるのです。このような場合、漢方によるダイエットの方法は脾臓を強める薬がよく使われています。例えばオウギ、アマチャヅルなどは脾臓を強めます。
2, 食欲を増進させる
   二番目は、食欲を抑制するのではなく増進させることです。代表的な生薬にはサンザシがあります。サンザシは昔から固い肉を柔らかくするために使用されてきたものですが、食欲の無い人にもよく食べさせます。例えば中国の病院では入院患者によくサンザシを与えます。なぜかというと、入院する人はたいてい食欲がないからです。このような消化を助ける働きをもつものが減肥薬として使われます。これは食欲抑制剤とは反対のやり方です。実際になぜこのようなものを使うかというと、中国の薬理研究所でサンザシは血中脂質を下げる効果が確認されています。血液の中の脂肪が少なくなったら、まわりの皮下脂肪も少なくなります。だから血中脂質を下げるサンザシやケツメイシなどいろいろな消化剤が使われています。
3, 血行を良くする
   3番目は血行を改善することです。肥満の人は血行がわるい傾向にあり、動脈硬化・高血圧・脳梗塞・心筋梗塞にもなりやすいといえます。このような病気は全て血行が悪いために起こる病気です。ですから血行をよくすれば肥満が改善されるといわれています。中国では昔から漢方で使われている血行改善薬「活血剤」を使って肥満を解消します。血の流れが良くなると、脂肪が局部に貯まらず、全身を循環し、消化・利用されるのです。
4, 利尿を促す
   4番目は肥満の人や動物は、体に水分が貯まりやすい傾向にあります。いわゆる水太りというものです。ですからこのような人は、水分の流れをよくする、つまり利尿を促すことで痩せることができます。
5, 便通を良くする
   5番目は便通をよくすることです。食べ物が体に入り、食道を通り、胃、十二指腸、小腸、大腸と流れていきますが、この消化の流れを早くするのです。腸の中の宿便もだし、便の中の毒素を吸収しないように、下剤を使用します。下剤といっても下痢をさせるのものではなく、順調に快便させるものです。そのようなものは体に全く無害です。下に詰まると上から食事は入りません。ですから、便を順調に出すことは非常に体に良いことです。しかし、激しい下痢を起こすものは栄養のバランスを崩すので、避けるべきです。激しい下剤(ダイオウ・センナなど)ではなく、ケツメイシなどの腸を潤すものが良いとされています。種子のあるものは油が含まれていますが、その油が腸を潤す作用があるので、便が出やすくなるのです。
 多くのダイエットの失敗の理由は、生理機能を邪魔したり乱したりするからです。正常な機能、例えば食欲も増進させることで、元気を保ちながらダイエットができるのです。ダイエット効果はすぐには出てきませんが、出てくるうちに体も元気になる。これが漢方でいうダイエットの基本的な考え方なのです。
 このように、正しい知識を持っていれば漢方の考え方は本当に素晴らしいものであるのに、このような事態が発生し、多くの方々に漢方に対する誤解と悪いイメージを与えてしまったことは大変残念で悔しいことです。
キーワード「痩せるのではなく、健康になること」
 袁先生のお話を伺うと、漢方でいう「痩せる」ということは、体を健康な状態にすることなのだということがよく分かる。対症療法である西洋医学は、ある症状が現れたら、その症状のみを治そうとする。一方、東洋医学はある症状が現れるのは、体のバランスが崩れたためとし、体全体のバランスを整えることで治そうとする。太っているという状態も一つのバランスの崩れた状態であると考えれば、バランスを整えるために漢方を使うことが、結果として痩せることに繋がる。したがって、食欲を抑制するなど本来の生理機能を邪魔したり、健康を犠牲にしたりしてまで痩せるという考え方は、漢方医学の中には存在しないのである。
 痩せたい、と思うあまり安易にダイエット食品を使用することは危険である。すぐに痩せる、手軽に痩せるなどの甘い言葉はまず疑うべきだ。たとえ痩せても健康を害しては意味がない。「ダイエットとは、健康を取り戻す手段であり、健康を保つための手段である」これが本当の意味ではないだろうか。

袁 世華 プロフィール
1941年、中国吉林省生まれ。長春中医学院医学部卒業後、同大学の教授を務める。1988年来日し、東邦大学医学部心療内科、産婦人科、情報科学研究所東洋医学研究室の主任研究員を経て、現在は北里大学医療衛生学部の客員研究員、杏林中医薬情報研究所の所長を務め、日本各地で漢方医学の講義や執筆活動を行っている。

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